目次このままでは日本は外交のステージに立てなくなる自分が“脱炭素の原動力”になろうと思った“知の供給者”として日本の脱炭素を底上げしたい「悩んでいる今も日本は沈んでいく」ーー。afterFITでCCOを務める前田雄大は、前職の外務省時代、日本の国力が下がる中で「自分は何をすべきなのか」を必死に考えていたといいます。そんな最中、担当することになった「気候変動対策」。そこで前田はある答えに辿り着きます。前編「『悩んでいる今も日本が沈む』 外務省を辞めベンチャーへ転職した理由」に続き、前田が外務省を辞めてベンチャーに転職した理由、その思いをご紹介します。(文:小林泰輔)このままでは日本は外交のステージに立てなくなる国家にとって重要な要素は色々あります。例えば「安全保障」、それから「貿易・産業」、新しいところでいうと「デジタル」など。実はこの3つのどれにもエネルギーが関係しています。いまや電気やエネルギーを使わないセクターは1つとしてありません。つまり、経済社会のベースにはエネルギーがあり、エネルギーが世界を回していると言っても過言ではないのです。そこで発生した、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換。私は「これは産業革命以降の常識が根底から覆るものになる」と考えました。もしエネルギーを自給できるようになれば、アメリカの中東に対する態度は変化するでしょう。原油が採れない中国も、広大な土地を活用すればエネルギーを自給できるようになります。ヨーロッパは経済復興の大チャンスで、オイルで儲けてきた中東は生き残るために新たな策を考えなければなりません。つまり、世界各国で利害関係がぶつかり合うことになると考えたのです。そういった背景に加え、トランプ政権(当時)が気候変動に真っ向から反対していたこともあり、G20大阪サミットでは「気候変動の調整は不可能だ」と言われていました。しかし「大阪の奇跡」とまでいわれた調整を実現させた結果、私は「もはや脱炭素は国益そのもので、そして、これはビジネスにも適用される」と確信しました。脱炭素は必ず重要なものになるーー。そのことを日本国内で発信しないと、国益を損なうどころか外交力の維持すら厳しいかもしれない。強くそう感じたのです。自分が“脱炭素の原動力”になろうと思った世界の動きを追いかけるにつれて、この危機感は大きくなっていくばかりでした。2020年、世界最大の資産運用会社「ブラックロック」が合計資産総額2500兆円を超える投資家たちにインタビューしたレポートを出しました。そこに書かれていたのは“Climate is king”。つまり「気候が王様である」と。8割を超える投資家が、ESG投資の「E=環境」を重要視していることが明らかになりました。その言葉通り、脱炭素銘柄は急激に株価を伸ばします。デンマークで再生可能エネルギーを扱うオーステッド社の時価総額は、2020年に日本の電力会社10社の合計金額を抜きました。東京電力や関西電力など10社の時価総額の合計を、デンマークの1社が超えたのです。その動きを読んだAmazonやGoogleなどの世界の主要企業も再エネ調達に力を入れました。企業活動をするうえでエネルギーは欠かせません。化石燃料がどうなるかわからない今、リスクに備えて再エネ導入を進める企業が増えていったのです。主要企業が自社の脱炭素化を実現するとどうなるか?そうした企業は続いて自社のサプライチェーンの脱炭素化に取り組む、というのが世界的な流れになっています。下請け企業、孫請け企業が脱炭素を取り組む必要が生じるのです。アップルはすでに取引先に脱炭素への取組を要求しています。私は、こうしてどんどん脱炭素のドミノが倒れていくだろうと考えました。これから先は、脱炭素にうまくシフトする企業が勝ち残っていくと確信したのです。しかし、日本国内ではどうか?誰も目立った動きを見せていませんでした。大手企業は投資のリスクを避けてお見合いをし、国もなかなか立ち上がろうとしません。世界が歴史的とも言われる転換点を向かえ、地滑り的に転換しているのに国内では脱炭素転換が一向にできず、現在も火力発電が約80%を占めています。このままでは脱炭素の波に乗り遅れてしまう。せっかくエネルギー自給を実現できるチャンスなのに、このままだと、今までと同じようにエネルギーを輸入に依存することになってしまう。経済力を世界に誇れなくなった今、以前と同じような動きをしていては絶対に日本の未来は危ういものになります。もう、お見合いをしている場合ではありません。私は日本が好きです。就職活動のときに抱いた「日本をもっといい国にして、皆が笑って過ごせる未来を作る」という決意は全く変わっていません。そして自分は脱炭素と向き合う中で、答えを見つけました。当たっているという確信があります。その方向に日本をリードすれば、この国はさらに成長していける。それが世の中の幸せにつながる。そう確信しています。だから、みんなが動かないのであれば、お見合いを続けるのであれば、私が原動力となってこの国を変えていこうと思ったんです。そして、外務省を辞める決意をしたときに出会ったのがafterFITでした。“知の供給者”として日本の脱炭素を底上げしたいかんちゃん(社長)とは、初めて会ったときから意気投合しました。発想の一つひとつが斬新で面白いと思ったんですね。「送電線を北海道から本州につなげるんや」と言われたときはさすがに「それってベンチャーでできるのかな?」と思ったのですが、ベンチャーができるのはデカいスケールの夢を語ることでもあります。かんちゃんも私と同じように「脱炭素で日本をもっと盛り上げたい」という考えだったので話が盛り上がり、終電がなくなっても夢中で話し続けました。そしてこの社長とであれば「絶対に面白いことができる」と確信しました。土曜日にかんちゃんから「一緒に働きましょう」と打診を受け、次の月曜日には外務省に退職の意向を伝えました。退路を断ち、脱炭素に人生をかけようと決めたんです。さすがにすぐに退職はできず、ありがたいことに引き止めていただいたんですが、気持ちは一切変わりませんでした。何度も言いますが、私の行動の源は「日本をもっといい国にして、皆が笑って過ごせる未来を作ること」。私にとっては、外務省で働くこともその理想を実現させる手段でしかありません。afterFITがベンチャーだろうがなんだろうが、「国益」につながるのであればそれでいいのです。この瞬間、僕にとってそれが実現できるのは外務省ではなくて、脱炭素のフィールドだということでした。その考えから、外務省をやめてafterFITに入りました。今はafterFITでCCOを務めながら、EnergyShiftの発行人 兼 統括編集長として脱炭素メディア「EnergyShift」やYouTubeチャンネル「エナシフTV」の運営を行っています。最近では、ありがたいことに本の執筆依頼やメディア出演、企業様の脱炭素に関するコンサル依頼も多くいただいています。私の今の野望は、エネルギー自給の実現を通り越して、日本をエネルギー輸出国にすること。およそ考えられない夢ですが、この地滑り的な脱炭素の勢いをうまく活用すれば実現できると思っています。もしこれが実現すれば、日本は世界に対してレバレッジが効く産業を有しているということになる。物作りもエネルギーに立脚していますから、“ものづくり大国”日本の源泉にもなる。そうすれば皆がさらに豊かな暮らしができるようになるんじゃないかと思います。たとえ一企業では成し遂げられなくても、脱炭素の“知の供給者”として情報発信を行い、多くの方が脱炭素に関するアクションを起こすきっかけを提供し、社会の底上げができれば、実現できないことはないと思っています。YouTubeに出演していたりするので「有名になりたいのか?」と思われる方もいるかもしれません。有名になることは、たしかに影響力の行使の一形態であると思いますし、それなら有名になってやろうとも思いますが、僕の軸はあくまでも“世の中に対する影響力の行使”であって、目立つことが目的ではありません。例えるなら「歴史の教科書に載る人間になりたいか?」というと、そういう思いはありません。それよりも私は、“歴史を実際に動かすきっかけになった人間”になりたいと思っています。歴史上の人物には、その人間に影響を与えた、名を残していない人物がいると思うんです。未来の日本をさらに輝かせるためには、そういう存在が必要だと思っています。名よりも実を取る。圧倒的な「実」を実感したいです。何度も言いますが、私は日本が好きです。そして日本をもっといい国にして、皆が笑って過ごせる未来を作るんだと、本気で思っています。そのために脱炭素が絶対的なカギになると、私は確信しています。だからこそ、日本に“世界に誇る脱炭素企業を生み出す”のに全力を注ぐと同時に、“知”の部分からこの国を底上げしていきたいと思っています。いかがでしたでしょうか? 現在、afterFITには約400名の社員が在籍しています。インフラ業界なので、電力会社出身や再エネに知見がある社員が多いと思われがちですが、弊社はそうではありません。さまざまな業界で活躍した、ユニークなバックグラウンドを持つ社員が多数在籍しています。より多くの方に私たちの仕事に賭ける情熱をお伝えできるよう、今後も「私が再エネベンチャーに転職した理由」を続けてまいります。